あんかけが書く

かきたいことをかきます。

9つめのすき『ホームセンター』

 引っ越しをのために荷物をまとめながら気がついた。日常の中で使う道具というものは、案外多いのである。布団から身体を起こし歯ブラシで歯を磨き、椅子に座り机の上でペンを使って作業をする文化的な生活をする人間であればなんとなく使う道具は思い浮かぶのではないだろうか。六畳の空間で1日のほとんどを過ごすぼくもある程度の道具は必要だと思った。

 

 そして先日、足りないものを買うついでに、必要になりそうな道具を探すために先日ホームセンターへ行ってきた。ホームセンターに大きな家具は無いものの、雑貨は数多く揃う。特に、ぼくが行ったところはペットショップや木材など資材売り場もある大きめの店舗だ。街にゾンビが溢れた時は食品もあるここに立て籠もるのが最適だろう。ぼくはこういった店でうろうろと棚を眺めるのがすきである。

 自動ドアが開くと同時に店の中から風が吹く。入り口周りの特価商品や観葉植物を見ながら入店。ここからぼくのホームセンター探検が始まる。便座が壁に張り付く空間で佇んでみたり、アクアリウム用の精巧な模型を見て感心してみたり、日常で見ないアイテムの使い方を考えたり。やることは尽きないのだ。

 1時間半ほど意味もなくうろつき、目的を思い出す。スリッパを買おうとしていた。これまた探して良さげなものを見つける。
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誰もが一度は見たことのありそうな便所のスリッパである。店や学校にありがちなものが実際に売られているのを見て謎の感動。たまにしか見られないものを身近にするチャンスである。「履きてぇ………」と思った6秒後には冷静になり普通のものを買った。ちなみにこの便所スリッパは598円だった。

 

 スリッパ片手に満足するだけまた店内を周る。その後、会計を済ませ、店の出入り口に戻ってくる。入る時にはあまり気が付かないが、多くのホームセンターにはちょっとした休憩コーナーがある。トイレとベンチ、それらの近くには自販機と求人のお知らせや警察からの注意喚起ポスター。これらが存在する狭いスペースだ。

 この空間を観察し続けることはないが、ふと見るとベンチにはお婆さんが座っていたり、買い物を終えたおっさんがコーヒーを飲んでいたりする。ぼくはそれを見て、お婆さんであれば「農作業の道具を買いに来た旦那についてきたものの少し長引いて疲れてしまった」、おっさんなら「仕事の道具をいくつか買うついでに夕方前の休憩としてコーヒーを一杯」というような物語が頭の中で思い浮かぶ。来る客が何をしに来るかなんとなく想像できるのが、品揃えが豊富なホームセンターの密かに面白いポイントである。

 

 今のぼくなら「新生活のために必要な雑貨を買いに来た若者」、もう少しすれば「仕事帰りに次の現場で必要になる作業着や安全靴を急いで探すおっさん」、さらに歳を取れば「いろいろと買いすぎたもののために棚を買うか作るか悩むじいさん」と誰かの目に映るのだろう。ホームセンターに限らないが、店へ行く時は大抵客の生活も見えるのかもしれない。多少大げさに言うならば、今その人の人生を覗き見できる。

 

 願わくば、次にぼくがホームセンターに来るときはわくわくしながら目移りをしているような人間でありたい。