あんかけが書く

かきたいことをかきます。

片道切符

 朝から目覚まし時計を止めて二度寝した。

「馬鹿野郎、こんな日にゆったり寝てんじゃねえ」

「明日から生きていける?」

ごもっともな意見だ。大目玉をくらいながら身体を起こす。朝から起きなければならない理由はわかっている。今日から縁もゆかりもない地で暮らすのだ。

 

 寝ぼけ眼をこすり、洗面を済ませる。服を着替え、昨日荷物を詰めて膨らんだ鞄を用意する。それで準備は終わり。あとは出勤ついでに送ってくれる父を待つだけだ。なんだかんだ遅く起きた割に準備は早く終わってしまった。いつも家族でどこか出かけるときはこうだ。ぼくは大体「待つ」側の人間だ。

 

 待つ間、鼻をかんでいた。昨日から鼻水が止まらなかったのだ。汚すぎる自分の部屋を掃除していたせいだろうか。ものはすっかりなくなったが、おかげで鼻炎になってしまった。母が見かねて薬をくれた。なにやら副作用の話をしていたが、うわの空で聞いていなかった。書きながら今わかった。喉が渇くのだ。

 ネクタイを結ぶ父を横目に、薬を飲みながら天気を確認する。

「今日はこの辺晴れだってさ」

「ふーん」

「お前がここの天気を見ても仕方ないだろ」

言われて気がつく。すぐさま調べ直す。

「向こうも晴れだわ」

「それはなにより」

全国どこも晴天だ。暖かくなるというのも嬉しい。きっと外に出ることになる明日も晴れのようだ。

 

 父も支度を終え、外へ出る。母は玄関先で見送りだった。

「気をつけて」

「はいはい」

なんともない会話だった。そのまま父の車に乗り込む。道中の会話はなかった。ただラジオが響くだけだった。そのまま二人、無言で駅まで歩いた。改札を通り階段を歩く。慣れた足取りで前を歩く父の後ろをついていった。

 

 少し待って電車が来る。周りのスーツ姿のおじさん達に混じって乗り込む。どこを見ても疲れて光を感じない瞳があった。自分もこんな有象無象に成り果てると思うと嫌になる。それでも、誰でも家族とか楽しみとかを糧に必死に生きているのだろう。ぼくもそうなれるだろうか。将来のことは考えたくない。

 各駅停車に乗ってしまったため、そんなおじさんは佃煮ができるほどやってくる。目的地に少しずつ近づく電車、増えるおじさん。おじさんとひとまとめにしても十人十色、千差万別。どれもその人なりの人生がある。これだけのおじさんは世界から見れば氷山の一角なのだ。そう考えてまた少し嫌になる。

 

 駅につく。電車を降りると、父はいつの間にか後ろにいた。

「お前は向こうだぞ」

「知ってる」

これまた黙って先を歩くぼくと後ろの父。

 

 何も話さず、とうとう新幹線乗り換え改札まで来た。

「まあ、頑張れよ」

「うむ」

それだけの言葉を交わし、二人は逆方向へ進み、雑踏の中へと消えていった。