そうじゃないだろ。
なんか違うんすよ。
今の感覚を例えるなら「天一に行ってこってり大盛と白米大盛を注文したらスガキヤのトッピング無しラーメンが出てきた」。ドラクエの映画だぁ、わーい。と映画館に走ったものの、見たのは欲しかったものとどこかズレているものだった。
以下、DQ5と映画のネタバレしかない。これからプレイしてみようという方は要注意。
ドラクエは1~6までクリア済み。その中でも5は特に思い入れのあるソフトである。小学生の頃はビアンカを嫁にし、中学生でやり直してフローラを嫁にした。今やれば確実にフローラを選ぶ。好みの変化である。
おおよそ20年の冒険は主人公という男を魅力的に映し出している。幼少期は年相応の振る舞いを見せながらも、勇気と優しさは人一倍。大人になればそれらを残しつつ、パパスの跡継ぎとしても父親としても良い男になる。
その人生は山あり谷ありという言葉が的確に表す。「ぬわーーっっ!!」、奴隷生活、村を助けたら罵倒、石化、それにより子供のかわいい時代を失くしてしまう、人生懸けてやっと会えた母親もアレ。こう書くと谷しかない。クリア後は彼に幸せに生きてほしいと心の底から思った。
さて、映画の話をする。
好きな所から挙げることにする。
まずは曲。原作に流れるBGMをうまく作中に落とし込み、雰囲気に合った使い方をしている。SEにも呪われた時のものがあったり、ファンサービスの一環か、DQ6(たぶん)のBGMがあったり。ドラクエの曲なので当たり前なのだが、アクションシーンの多い本作において、奮い立たせるような曲は場面の盛り上げに一役買っている。
そしてCG。『STAND BY ME ドラえもん』の制作メンバーによるものか、スライムやキラーパンサーの質感はイメージに合っている。呪文エフェクトも「ドラクエらしい」ものとなっている。全体的にDS版に寄せたものになっているのだろうか。
以上。
要は「雰囲気作りは上手く出来ているな」、という印象である。
道中がクソすぎる、というわけでもないのだが、それでも一番問題点があるのは脚本だと思う。20〜30時間ほどの「物語」を2時間程度にまとめているせいだろうか。本編は非常に薄い。
子供時代はレトロ調の一枚絵でほぼカット。そのせいでビアンカもレヌール城も飴玉を溶かして作ったジュースの如き無味、サンタローズもサンチョとパパスの家以外ほとんど出ない、突然出てきた王子も10秒後に誘拐、と思えばすぐに救助、続く「ぬわス」も辛いシーンではあるのだが、こちらも描写が足りない故に感情移入出来ない。
もっとこう………あるだろ!!!!!!!!!!!!
ついでにこの辺で言うなら「ぬわーーっっ!!」っぽい発音がほしい。叫び声は良かったのだけど。
で、順当に脱出。
ヘンリーと出てきたけどすぐ別れる。結構長く一緒にいたし、ニセ皇后の件とか触れてほしかった…。そのくせサンタローズは燃えている。とは言っても幼少期は何もしていないし、サンチョ以外の住人はいないため、「大変やなぁ」となる。実際は第二の故郷が燃えているのだ。あかんでしょ。
旅に出る流れは原作っぽい。あまり違和感がなかった。
ここからしばらくダイジェスト。メタスラを狩ってレベリング。調子に乗る主人公。なんか来たスラりん。そしてゲレゲレ。カボス村の胸糞イベントは正直好きじゃないのであれくらいで良かった。
「魔物使い」としての主人公もあるのだが、この辺りで仲間になるモンスターが少なすぎるせいでそこも微妙。ピエールとかブラウンとか増やしてほしい…。
気づけばサラボナ。ここからドラクエ5といえばの「結婚イベント」である。幼馴染のビアンカ、令嬢のフローラ。デボラは無し。今回は見た目とその他でビアンカに動いた。
ビアンカがダイジェスト紹介されていたので「また二人で冒険だ!」という感じがない。「たのしそーだねー」くらい。フローラも実は冒頭にいたのだが、こちらもダイジェストで1カットだけ。
ルドマンはデザインが変わって違和感があったが、街を作って住民からも慕われるいいオッサンではあってくれたのでよかった。
結婚にまつわるエピソードは良くできていたと思う。公式がビアンカ推しなため、ビアンカが選ばれるのは仕方ないのだが、フローラ派の私も許すくらいには良い。
フローラの声やってる人がすごかった。あと、主人公のフルネームが小説版の設定引っ張ってきてて感心した。
途中に挟まるブオーン。それなりに長いアクションシーンとあって、出来も良い。文句を言うならブオーンが小さい。イメージの1/3くらい。原作の「は?なんなん?ラスボスか?」くらいの絶望感はなかった。
結婚して2年くらい幸せに暮らす。さらっと流すが双子ではなく男の子しかいない。原作で女の子は主人公並に魔物使いの才能があったり、ちょっとおませな感じがあったりとキャラ立てもしているのだけれど。
両親に会いたい気持ちを兄妹で乗り越える、という旅の途中を想像しながら過ごすことにもなるのだが。入れてほしかった。
なんやかんやあって石化。これはこれで良いのだけれど…。原作の方が好き。子供視点であれば「どこにいるかもわからない父親」「両親に甘えたい時期なのに必死に旅」、主人公視点であれば「子供のいる家庭の庭で奪われた時間の『こういう幸せもあったはず』を見せつけられる」「蹴り倒される」「嫁について何年も何もできない悔しさ」などなど伝わってくる。
映画は石像の位置も判明しているために、息子からすれば原作より近い存在である。もどかしさは原作より上かもしれない。
ゲマもセリフが増えてくる。ゲマの声の方も怪演と呼ぶに相応しい演技。イメージ通りで良かった。
何気にこの辺りのシーンで逃走手段にルーラを使う。ギガンテス3体もルーラで追いかけてくる。見た目はドラゴンボールチックで素敵。
そしてマスタードラゴンと協力。ドラゴン周りの設定は悪くない。飄々としたオッサンは原作通り。いろいろあって飛べないドラゴンのためにオーブを何とかする。あんまり好きじゃないシーン。
「坊主、頑張れよ」(意訳)「ぼくは負けないよ」(意訳)という会話がある。ここは確かに良いシーンなのだが、もっと言うべきことがあっただろ。原作は「父さんを大事にしろよ」と青年主人公のセリフがあるのだが、映画では無いのだ。
いやお前、言われなくても大事するだろうとは思うけど、それでも幼くしてぬわスするんだから親孝行し足りんことはないぞ…。
こういう面もあってパパスの存在感が薄い。もう少し父親に関して触れてやるべきじゃないのか?世の中はわからない。
ドラゴンの協力も得て本拠地へ。ラストバトル周りは満足。ゲマもクズで安心。
はい。問題のラスト。
オタク、ゲームを肯定されるのは嬉しいがそれらの扱いを間違えるとキレる。
以下、クソネタバレ。
- この世界は「VRゲーム」
- 主人公も中身はゲーム好きなニーチャン
- ニーチャン以外はプログラムでしかない
- ラスボスもゲーム内ウイルス、くだらんゲームを破壊しに来た
こんなもん。
ラスボスがゲームのテクスチャを剥がし「世界の真実」を語るのだが、ゲーマーを攻撃する役割な以上、見ている人間にも効く。何か喋っていたがこれしか覚えてない。
「大人になれよ」
ザキ、痛恨の一撃、輝く息、メラゾーマが一度に俺に襲ってきた。頼む。それだけはどこでも言わないでくれ。ドラクエが見たかったのに。現実が見たかったわけじゃないのに。大人になれずグダグダと生きてるからこんな時間から映画見てたわけなのに。
それを公式側に言われた。この感情はどこにぶつければ良い?ドラクエなんか好きであっちゃいけなかったのか?映画前の宣伝で勇者参戦のスマブラのCMにニコニコしちゃいけないのか?俺の人生の選択は間違ってるのか?
その後に主人公も言う。確かこんな文章を。
「そんなことはない。どんなゲームだって中には物語が詰まってる。これだって紛れもなく現実なんだ。もう一つの物語なんだ…!!!」
は?
お前テクスチャも剥がされて当たり判定処理も無くなってオブジェクトとしての存在すらも無くなったビアンカ達の前でもそれ言えんの?
「大人になれよ」と言われ、空想は空想と切り捨てられた後で「これも現実」と立ち向かえるのは精神倒錯者かガチオタクである。俺にはそこまでの気力はない。
エンディングは主人公(ニーチャン)が「俺も間違っちゃいねえ」と「エンディング」を見る、というものだ。あそこまでの正論を出されて、なおも仮想空間に現実を求める。
お前はすげえよ。俺は心が折れた。
辛くなってきた。
見終えて、虚無に押しつぶされそうな自分の周りを親子連れが席を立つ。仲睦まじくエンディングの解釈を話す親子を見て、俺が物語を作り上げることが無いことを悟る。
俺の物語は空想でしかなく、現実世界で何一つ成し遂げることもなかった。周りのトーチャン達はこれから子供に本当のドラクエを教え、子供もまた親父の好きなものを心に残していくのだろう。
なぜワクワクした少年のような瞳で向かった映画館で叩きのめされなければならなかったのだろう。
レディプレイヤーワンをしばらく前に見た。あれも「おうおまいら!俺はゲームで金も女も地位も手に入れたぜ!ま、ゲームも程々に、現実も見ろよな!」というシメだった。
アレは現実世界と完全にリンクしていた上に、現実世界でもそれなりに頑張っていたから情状酌量の余地はあった。こちらは本当に空想のキャラクターとただファンタジーに興じていただけ。
現実とは。
多分、これを見て大人も子供もおねーさんも、思うことは一つ。「ドラクエ5やろう」。
長い長いCMを見ていたと思って、気持ちを切り替えていく。きっとスマホ版の販促だったのだ。なにも見ていなかった。
みんなも映画館に行くより原作をやろう。
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